定着する蜂、逃げる蜂

定着する蜂、逃げる蜂

同じ「ミツバチ」という名前でも、性質が大きく違う種類がいます。
西洋ミツバチと、ニホンミツバチです。

西洋ミツバチは、人の手によって長く飼い慣らされてきました。
飼育の証拠は、アフリカでおよそ1万年前まで遡るとされ、古代エジプトの壁画にもその様子が描かれています。
19世紀半ばには、アメリカでラングストロスという人物が、取り外しのできる巣枠を考案し、巣の中を扱いやすくする技術が広まりました。
性格がおとなしく、与えられた巣箱に留まり続ける性質は、長い年月をかけて選ばれてきた結果だとされています。

一方、ニホンミツバチは、日本に古くからいる野生の蜂です。
条件が整わないと、巣ごと群れで飛び去ってしまうことがあります。
これは「逃去(とうきょ)」と呼ばれます。
前の日まで活動していた巣箱が、翌朝には蜂も蜜もほとんど残っていない状態になっていることもあります。
食べ物になる花が少なくなったときや、巣箱の形が合わないとき、外敵に襲われたときなどに起こるとされています。
元気で蜜をたくさん貯めている群れが逃げ出すことは、あまりありません。
むしろ、条件の悪い場所から早めに離れることで、群れ全体の生存率を上げてきた、という見方もあります。

外敵への向き合い方にも、この違いが表れています。
ニホンミツバチは、巣を襲うスズメバチを何十匹もで取り囲み、体を震わせて熱を発生させ、蒸し殺してしまう行動が知られています。
西洋ミツバチには、この行動が見られません。
スズメバチに巣を襲われると、抵抗する術がほとんどなく、短時間で群れごと壊滅することもあります。

この違いは、養蜂のやり方にも関わってきます。
西洋ミツバチであれば、養蜂家が特定の花の茂みに巣箱を置き、そのまま留まってもらうことができます。
一種類の花に囲まれた場所に留まり続ければ、集まる蜜もその花に偏りやすくなります。
ニホンミツバチの場合は、同じようにはいきません。
巣箱の形ひとつで逃げ出すこともあるため、場所を決めて集中的に蜜を集めさせる、という管理が難しくなります。
群れが自分で選んだ場所から、その時々で通える範囲の花を集めるため、蜜は自然と、色々な花が混ざったものになりやすくなります。

西洋ミツバチが、逃げることも戦うこともせず留まり続けるのは、長く人に管理される中で、その必要が薄れてきたためかもしれません。
ニホンミツバチは、逃げる判断も、戦う手段も、今も自分自身で行っています。
どちらの蜂も、巣箱を離れて生きることは可能ですが、そこに留まるか出ていくかは、最終的にその群れ次第です。

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