八寸という長さ

八寸という長さ

蕎麦屋さんに入ると、長いそばが出てくることが増えました。
箸で持ち上げ、つけ汁に入れるときに、手を高く上げる場面があります。
器のふちよりずいぶん上まで持ち上げないと、麺の端が汁に届きません。
食べはじめのたびに、その動作が繰り返されます。

昔は「うどん一尺、そば八寸」と言われていたそうです。
うどんは長くて一尺(約三十センチ)、そばはせいぜい八寸(約二十四センチ)。
八寸の意味は、箸でつまみ上げたときに二つに垂れ下がる具合がちょうどよく、ひと口でたぐり込める寸法だった、と語られてきました。

手打ちでは、延ばした生地を四つに折りたたんで包丁で切ります。
出てくる麺の長さは、自然に二十二センチから四十五センチほどに収まります。
麺棒に巻きつけて延ばす場合でも、二尺(約六十センチ)あたりが上限と言われていました。
作り方の中に、長さの上限が含まれていました。

ローラーで生地を延ばし、機械で切る方法が広まると、状況が変わります。
機械では、生地を反物のように連続して送り出せます。
切り出される麺の長さに、はっきりした上限がなくなりました。
昭和の初めごろの文献には「恐ろしく長い蕎麦だ、これじゃ梯子を掛けて食べなけりゃ、おっつかない」という言葉が残っています。

店で出される長さは、店ごとに違います。
機械から出る麺をそのまま使う場合もあれば、切り直す場合もあります。
八寸より長い寸法も、手元に届く形のひとつとして並ぶようになりました。
一方で、流通している干しそばの多くは、八寸前後の長さに揃えられています。
製造や運搬の都合で決まった寸法ですが、結果として、ひと口でたぐり込めると言われてきた範囲に重なっています。

長さの決まり方は一つではありません。
打つ技術の限界で決まることも、機械の能力で長くなることも、運搬の都合で短く揃えられることもあります。
食べる動きと重なる長さが、別の事情で選ばれていることもあります。

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