そば湯に残るもの

そば湯に残るもの

そばを茹でたあとの湯は、そば湯と呼ばれて、飲む人がいます。
うどんやパスタの茹で汁を、そのまま飲む習慣はあまりありません。
麺類のなかで、そば湯だけが、独立して扱われてきました。

そば湯は、薄く白く濁った液体です。
そばを茹でているあいだに、そばから溶け出した成分が、湯のなかに残ります。
デンプンの一部、たんぱく質、ビタミンB群、それからルチン。
そばの香りも、湯のほうに移ります。
茹でることで失われたように見える成分が、汁のなかに溶け込んでいる、と言えます。

そば屋では、ざるそばや盛りそばを食べたあと、そば湯が出されます。
つけ汁の残りにそば湯を加えて、味を薄めて飲む。
この習慣は信州から広まったとされ、江戸の町に伝わったあと、そばを食べる流れの最後の一杯として定着しました。
そばは、痩せた土地でも育つ作物です。
収穫の量が限られるなかで、茹で湯まで活かそうとする発想は、そば文化の自然な流れだったと言えます。

ただ、市販されている干しそばの多くには、製麺の段階で食塩が加えられています。
食塩は、生地をまとめやすくし、乾燥のあとも保存性を高めます。
このそばを茹でると、食塩も茹で汁に溶け出します。
食塩入りのそばの茹で汁は、そのまま飲むには、塩辛い。

食塩を使わずに打ったそばであれば、茹で湯に塩が入りません。
そば粉と水だけでまとめたそばは、そば湯がそのまま飲める仕上がりになります。
茹で汁にそばの成分だけが残り、塩は加わらない。

何を入れて、何を入れないか。
製麺の段階の選択が、茹で汁の中身を決めてきました。
そば湯に残るものは、茹でる前にすでに、決められています。

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