角のある形

角のある形

そばという名前は、素朴な響きを持っていますが、その由来には、実の形そのものが関わっているとされています。

そばの実は、丸みを帯びた米や、粒状の麦とは違い、三つの面が合わさった、角ばった三角形の形をしています。
古い日本語では、物の角が尖っていることを「稜(そば)」と呼んでいました。
この読みは、名義抄(みょうぎしょう)という平安時代の辞書に残るもので、現在の標準的な読みではありません。
今、「稜」の訓読みとされているのは「かど」で、音読みの「りょう」は、山の尾根を指す「稜線(りょうせん)」という言葉のなかに残っています。

九一八年に成立した本草和名(ほんぞうわみょう)という書物には、そばの和名として「曽波牟岐」という字が当てられ、「そばむぎ」と読まれています。
当時すでに栽培されていた麦(小麦や大麦)と区別する必要があったため、角のある実という意味で「そばむぎ」と呼ばれるようになったという説が有力です。
そばむぎという呼び方が「そば」と略されるようになったのは、室町時代からだと考えられています。
畑のそば(傍)に植えられることが多かったから、という別の説もありますが、実の形にちなむ説のほうが、文献の記録とも合致し、有力とされています。

表記に使われる「蕎麦」という漢字は、読みの由来とは別のところから来ています。
「蕎」の字は、艸(くさかんむり)と、高いという意味を持つ「喬(きょう)」から成り立っています。
そばは、六十センチから一メートルほどの高さまで育ち、ほかの穀物に比べて背が高いことにちなむとされ、「蕎麦」という漢字表記は「背の高い麦」を意味しています。
読みの「そば」は実の角に、表記の「蕎麦」は草丈の高さに、それぞれ別の由来を持っているということです。

今、そばと聞いて思い浮かべるのは、細く長い麺の姿です。
けれど、名前の由来になったのは、麺になる前の、角のある実と、背の高い草丈でした。
麺の形ではなく、植物としての姿そのものが、名前として今も残っています。

一覧に戻る