スロベニアの養蜂文化

スロベニアの養蜂文化

スロベニアは、人口あたりの養蜂家の数が世界で最も多い国です。
国土は九州ほどしかありませんが、「養蜂の国民」と呼ばれるほど、ミツバチとの関わりが深い国です。

養蜂の形も独特です。
「チェベルニャク」と呼ばれる木造の小屋を建て、南向きの壁一面に、引き出しのような小さな巣箱を並べて組み込みます。
日当たりを確保しつつ北風を防ぎ、地面から持ち上げて湿気を避ける造りです。
その引き出し一つひとつの前面、縦12.5センチ、横30センチほどの板に、絵を描く習慣があります。
現存する最古の作品は1758年のもので、聖母子が描かれています。
病気や天候の影響を受けやすいミツバチを気遣い、無事を祈って絵を添えたのが始まりだと言われています。
19世紀に入ると題材が広がり、聖書の場面のほか、動物たちが猟師の棺を担いで葬列を組む絵のような、主従関係を逆転させた風刺画も描かれるようになりました。
現存する3000枚ほどの巣箱絵から、600以上の異なる図柄が見つかっています。
今も現役のチェベルニャクで、この習慣を続ける養蜂家がいます。

この文化の中心にいたのが、アントン・ヤンシャという人物です。
訓練を受けた画家でありながら養蜂家でもあり、女帝マリア・テレジアの宮廷で、最初の養蜂教師に任命されました。
当時、蜂蜜を採るために巣ごと蜂を処分する方法も広く行われていましたが、ヤンシャは蜂を殺さずに採る技術や、花期に合わせて巣箱を移動させる方法を教えました。
国連が定めた5月20日の「世界ミツバチの日」は、彼の誕生日にちなんでいます。

この地域が原産のカルニオラン種という蜂も、静かで扱いやすい性質から、今では世界で2番目に広く飼われる品種です。
毎年4万匹ほどの女王蜂が、各国へ輸出されているといいます。
一枚の絵から始まった蜂への気遣いが、遠く離れた国の養蜂にまでつながっているのかもしれません。

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