香りが立つとき

香りが立つとき

そばといえば、香りが立つ食べ物だと言われることがあります。
挽きたて、打ちたて、茹でたて。
時間の要素が並ぶのは、香りに関係しているからです。

そばの香気成分の多くは揮発性で、空気中に逃げていきます。
挽きたての粉に近いほど、香りは強く残っています。
時間が経つと、香りは徐々に減っていきます。
玄そばの状態で保管しておけば、揮発は遅い。
粉にした瞬間から、香りが空気に触れて減っていきます。

同じそばの中でも、部位によって香りは違います。
外側の層に近い粉ほど、香りの成分が多く含まれます。
中心の芯粉は、雑味とともに香りも控えめです。
更科そばは、雑味が少ない代わりに、香りも少なめの仕上がりになります。
挽きぐるみのように全層を含む粉は、香りが立ちやすい。
「香りの強いそば」と呼ばれるものの多くは、外側の粉を含む方向の仕上がりです。

香りが立つ場面もあります。
茹で上がりの湯気には、加熱で立ちのぼる香りが含まれます。
口に入れた瞬間、鼻に抜ける香りがあります。
噛んだあと、口の中に残る余韻もあります。
それぞれの場面で、感じ取る香りが違います。

香りを強く感じるか、控えめに感じるかは、部位と時間の重なりで決まります。
そして、食べる側が「そばには香りがあるはず」と思って向き合うかどうかも、感じ方に影響します。

そばの香りは、いつでも同じ強さではありません。
挽いてから、打ってから、茹でてから、口に入れるまでの時間のあいだに、香りは弱まったり、加熱や噛む動作で強まったりします。
どの部位を選ぶかによっても、香りの強さは変わります。

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